Poo-tee-weet?(プーティーウィッ?)

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ハーバード・ビジネスレビュー 2015年11月号『人工知能』を読んだ

ハーバード・ビジネスレビュー 2015年11月号『人工知能』を読んだので備忘録と雑感を書いておく。IT業界でも近年ではビッグデータというところから、深層学習というキーワードが出てきてビジネス的にも技術的にも重要なキーワードと思われる。僕の周りでもこの雑誌を気になっていたと言う人が多いので、読まれる前のキッカケにでもなれば。

 

 

 

グレート・デカップリングー富は富める者のために?

まず経済的な兆候についての論文が『機械は我々を幸福にするのか “The Great Decoupling』にて紹介されている。経済成長の健全性を図る指標として、一人当たりGDP、労働生産性、雇用の数、家計所得の中央値があるらしいが、そのうち所得の中央値は過去15年ではマイナスになっている。雇用の数についても近年減速気味だという。グレート・デカップリングとは、この4つの要因(2つはマクロっぽく、2つはミクロっぽい)が離反するような現象を表す言葉である。

 

「第二の機械時代」、つまり産業革命の時代には人間の筋力の代わり(=ハード面での代替)となっていた機械が、コンピュータやロボットの進化によってプロセスや意思決定などの人間の能力の代わりになりはじめている(=ソフト面での代替)。これによりあらゆるイノベーションが低コストで瞬時に行われやすくなっているが、一方でそれらは一部の人々を富める者にしているという状況にもある。

 

 デジタル技術を使えば、ほぼコストをかけずに複製ができます。それぞれは完全なコピーで、地球上のほぼどこでも、ほとんど瞬時に送信できます。「第一の機械時代」にそうした特徴はありませんでしたが、デジタル商品ではそれが当り前であり、その結果、勝者総取りのような独特の自体が生じます。
 多くの産業では、大卒の人とそうでない人の賃金格差の拡大は、高所得層のもっと大きな変化に比べれば小さく見えるようになりました。二〇〇二年から二〇〇七年にかけては、所得上位一%の人たちが米国の成長による利益の三分の二を手にしています。

ーp38 機械は我々を幸福にするのか

 

この論文の結論では、ロボットやコンピュータに労働が奪われる部分があるものの、下記のような点においては人間の方がまだ優れているとの説明がある。①高度な創造性、②感情・対人関係・思いやり・コーチング・意欲喚起・統率など、③機敏性・可動性。芸術分野や人間をマネージするのはまだ今考えられる時点では人間に軍配が上がっている。また、機械に任せられることを見極め、機械と協働するということが必要になり、ユートピアに案内するのも、ディストピアに案内するのも人間の”判断”次第だという。

 

人口知能とビジネスの関わり

『人工知能はビジネスをどう変えるか “How Will AI Change Our Business”』では、最近の人工知能ブーム?の兆候を示す技術的な変化と、それのビジネスへの影響がまとまっていてわかりやすい。AI=ディープラーニングと思われがちであるが、それについての誤解も華麗に解いてくれる。

 これから起きる変化の本質は、深層学習、分析手法など情報科学的な技法の革新だけでなく学習データの質と量、これを実装するコンピュータの情報処理能力の三つの変化がセットで起こることにある。

ーp44 『人工知能はビジネスをどう変えるか “How Will AI Change Our Business”』

 

AIは識別・予測・実行、の三つの観点において人間の代替をすることになると分類している。これらのカテゴリの中の数多くがすでに実例があるものだが、実行においてはまだ実例が少ないようである。この三つがAIによって取って代わる可能性があるわけだが、人間とのすみ分けについても具体的に提示されている。それは、AIには意思がないこと、知覚がないこと、問いを生み出せないこと、などなど。これは非常に示唆的で、AIと人間がうまく協働しなければならないこと、人間はAIの特性を理解した上でそれを活用できるようになる必要があることが具体的にに理解できる。


 現在、モノ・カネ側のリソースを主として強みとして持つ企業と、データ・キカイ側のリソースを主として持つ企業が混在しているが、興味深いダイナミクスが今後起こるだろう。
 AIが日々の意思決定をサポートする時代においては、データの民主化を推進して初めて、AIがもたらす膨大なポテンシャルやインサイトを活用できるようになる。
 現場が上の判断を求めることなく、AIとデータを用いて、洞察を得、それをもとに日々の業務を回していくということだ。これまでのようにトップマネジメントが情報をすべて押さえ、それをベースに組織をコントロールしようとするというのは無理になる。
 このような時代では、マネジメントとしても一人のプロフェッショナルとしても、機械とうまく働けるかどうかが問われるようになる。この新しいチカラを十分に引き出せるかどうかは、シニアマネジメントがデータやAIの能力、限界に精通しうるか次第といえる。いったん何らかの作業が自動化されると、一人ひとりの役割と責任に対して不可逆的な変化が起き、人間がやる仕事を再デザインする必要がでてくる。

ーP55 『人工知能はビジネスをどう変えるか “How Will AI Change Our Business”』

 

雑感

シンギュラリティが起きるのは2045年と言われているが、それまでの間に技術は日進月歩で進化していく。この波に飲み込まれないようにするには、これらの技術的な変化に敏感になりながら、自身でもそれを使いこなせる様になる必要があるだろう。今までに人間の思考形態が、インターネットがなく推論し、人に聞き、辞書で探していたことが、Google検索に取って代わったように、「ググれカス」がAIを利用した思考回路に変わっていくのかもしれない。

日本においては変化を嫌う人が多い文化なのだが、そうも言っていられなく、2030年には人口の三分の一が65歳以上となり*1、それを支える労働人口は相対的に少なくなる。変化を受け入れて、高度な技術を局所的にでも積極的に取り入れていかなければならないのではないかなと思いました。

 

組織文化からすると何でもかんでも減点主義になりがちな環境を脱却して社内インキュベーション(社内だと判断する人が年配者になるけど)などを積極的にやるべきだし、社内だとそういう異端が白い目で見られることもあるので、社外にスピンアウトすることを積極的にできる環境というのが必要とされると思う。

また、キャリア的な観点では、マネジメントにおいては「人間的な」「感覚的な」ことから、AIなどの「実際的な」データなどを駆使できるスキルがこれから求められるので、そのスキルを若いうちから身に付ければ、生き残りの道は残されているのだろう。

 

 

 

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