Poo-tee-weet?(プーティーウィッ?)

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一生お世話になりそうな本:『努力する人間になってはいけない』を読んだ

『努力する人間になってはいけない』、というシンプルなタイトルにも関わらず分厚い装丁。これがこの本の本質を示しているのではないかと読み終わった今だからそう思える。


索引のページ


読み進んでみると努力の話だけではなく、教育について、自由について、Twitter微分論など多岐に渡る議論がなされている。

その一言一言がずしずしと心に突き刺さる。時々本棚から取り出して、長風呂でもしながらパッと開いたところを読み返してみるのもいいかもしれない。そんな長風呂にも付き合ってくれる(?)ような存在の本である。

個人的には「大人とはどういうものか」「自由って何か」などについての文章が印象に残っており、もしも感覚のあう人ならこれを読むように即座に伝える。まあもう20代も半ばなので、なかなか紹介しにくいところがあるが・・。

この本を紹介するのに多くの言葉を使い過ぎると自分の無能さを露呈するようだが、せっかくだし個人的な備忘録としても書いておきたいと思う。


努力する人間になってはいけない―学校と仕事と社会の新人論

芦田宏直 ロゼッタストーン 2013-09-02
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大人


 生きている人、人殺しに無縁な人は、どんなふうにしてか、生の受動性を受け入れることのできている人たちなのです。その人たちを<大人(おとな)>と言います。遠い責任(負い目)を受け入れることのできる人、それを<大人>と言います。
 大企業の経営者は、会ったこともない自分の部下の不祥事で引責辞任を余儀なくされます。これはマネージメントの不備という以前に人間の組織の一つの<美>です。生まれ落ちた偶然にもっとも近接した人間の組織や社会性と言われるものの顕現です(動物の組織=社会には決してあり得ない)。大企業のトップ(あるいは大組織のリーダー)は、ほとんどの場合、遠い責任=偶然性を担える人でなければならない。彼は誰よりも<大人>でなければならない。リーダーとは部下を否定しない人のことを言います。 
ー第6章 なぜ、人を殺してはいけないのか (p178-179)

この章の本質ではないかもしれないが、なぜ人を殺してはいけないか、の中に大人とは何かという話があった。引用した部分だけではなく他の部分でも納得させられる言葉が多く、まさに「腹に落ちる」という感覚だった。

気になるところというのはおそらく今の自分が敏感になっていることについて何らかの証明が欲しいのではないかと思うが、今まさに「リーダー」や「大人」といったものに対してどう向き合っていくかを考える必要があるのかもしれない。


自由


アメリカは実力至上主義だと言っているけれども、大学に入るには、高校のときにボランティア活動をどれくらいしたか、親の推薦状がどのくらい書けているのか、高校の先生はどう評価しているのか、などいっぱいそういう”人間的なこと”を聞かれます。試験点数以外の家族主義的な履歴、あるいは長い時間の評価(極限は万世一系の天皇家評価)を問うわけです。それこそ差別主義で、一日で逆転満塁ホームランが打てる日本のマークシート方式こそウルトラ近代主義だと言ってよいのです。一日という短い時間だからこそ逆転満塁ホームランが打てるのです。
ー第9章 ツイッター微分論 (p.308)

先程の「大人」についての話とは少し異なるが、これはむしろ過去を見返すと「確かにそうだな」と感じることを明確に示してもらったと言える文章。最近では(おそらく少子化などの背景もあり)AO入試とかで入学する人が多いのかもしれないが、日本の大学入試システムはこの説明を読む限り良いものなのではないかと思った。

大学入試を頑張っておけば就職活動に置いて「学歴フィルター」と呼ばれるものに引っかからなくとも済む。しかしそこまで考えて受験を頑張る、という人は世の中には非常に少ないんだろうと思う。僕自身も特にそんな意識はなかったが、単純に勉強したいとか知識を持つことがどれほど重要かと考えての受験だった気がする。個人的には効率の大学を目指すべきだったとの後悔はあるが。

10代における「大逆転」が入試だとすると、サラリーマンとなった20代・30代における「大逆転」はなんなのか、そんなことを考える。


索引


本書のあとがきで、

<検索>と<索引>とは違うものだということに対する電子書籍派への、私たちの少しばかりのイヤミでもある。

と言っているようにこの本には特別に作成したという索引がある。一度読んだとしてもなんども螺旋階段を行ったり来たりしながら筆者と会話ができる本になっている。

なんとなく本棚から手にとって索引の中で今気になることを見つけて読んでみるのもいいし、無意識に開いたページを読むのもいいと思う。これは2013年(もう14年になっているが)に読んだ本で断然ナンバーワンの本であるし、これからもお世話になりそうだ。


おまけ


『知識創造企業』の中では哲学(考えを持つこと、考えを想像すること)がいかに大事かについて論じており、各哲学者の紹介なども含めて現代経営への必須課題として議論している。90年代に書かれた本だが実践出来ていない(大きな)企業が多いのではないかと思う。

知識創造企業

野中 郁次郎,竹内 弘高 東洋経済新報社 1996-03
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