さて、この『アドルフに告ぐ』はヒトラーがドイツを統治していた時代を舞台としたストーリーです。秘密の文書を巡って3人のアドルフを中心に物語が進みます。
1巻冒頭 |
歴史を理解する
全5巻ですが、すごくスピード感もあって面白かった。フィクションといいつつも、歴史背景は忠実に再現されているし(否、その時代に生きてなかったので忠実かはわからんか)、"ユダヤ"が物語のキーになっていて、最終巻ではイスラエル-パレスチナの話まで出てくるところは、現代中東問題の背景を知る上でも素晴らしい漫画だと言える。日本、ドイツ、を中心に第二次世界大戦中の熱狂がまさに狂ったものであるというように、登場人物も狂気じみている。
5巻。ドイツ敗戦間近。 |
昭和58年から60年(1983年から1985年)に書かれた漫画ということでイスラエルで何かあったかなと思ったら、イスラエルによるレバノン侵攻があったのが1982年のことだった。そういうのもあって手塚治虫はこの漫画を書いたのかなあ。すばらしい。
1982イスラエルの三段階によるシナイ半島からの撤退が完了
ガリラヤ平和作戦により、パレスチナ解放機構(PLO)のテロリストをレバノンから駆逐
http://embassies.gov.il/tokyo/AboutIsrael/history/Pages/History-Israel-Timeline.aspx
血で血を洗うイスラエルの「レバノン侵攻」と「パレスチナ難民大量虐殺事件」―1982年6月―
http://inri.client.jp/hexagon/floorA1F/a1f1807.html
ずっとこのユダヤの歴史とか文化については興味がある気がする。去年はイスラエルへ行ったし(これとこれ)。
組織・アイデンティティを理解する
『アドルフに告ぐ』の前にちょうど『劇画 ヒトラー』を読んでいたのでなんとなく興味の文脈があるのかなあと。それはそうと、ヒトラーとナチスという組織と同じような組織は現代にもたくさんあるんじゃないかあと思って読み進めていました。自分のやりたいようにしたい上司と上司の無茶振りに振り回される部下のような。
4巻より |
『アドルフに告ぐ』では一人のアドルフがユダヤの友人を持ちつつもナチスで教育をされドイツ人としての誇りをもってユダヤを排除する、自身のアイデンティティはユダヤとの対比でなり立っており、それが自分自身を蝕んでいくことになる。
誰かを否定して成り立つアイデンティティほど自分の首を絞めるものはないのかなあと思った。「あいつは〜だからダメなんだ、俺より劣等だ」とかいうのは人間性にかけるよね。そういうのにはならないようにしよう、そういう教訓もこの本で学べます。
この本は高校生とか大学生くらいに読んで欲しい。もっと早くこの本に出会っていたらもしかしたら自分も今とは違う方向へいたかもしれない。Kindle万歳。
アドルフに告ぐ 1[Kindle版] | ||||
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次はこちらかなあ。
わが闘争(上)―民族主義的世界観(角川文庫) | ||||
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