Poo-tee-weet?(プーティーウィッ?)

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『カレーライスの誕生』:読めば読むほど食べたくなる、カレーライスについてかなり本気な本。

 カレーが美味しい季節になりました。いや、いつ食べてもカレーは美味しい。僕の場合週に1回はカレーを食べている気がする。カレーライスは日本人にとってどんな意味を持つのかを紐解いてくれるのがこの『カレーライスの誕生』である。原本は2002年6月に発行されているらしいが、今年(2013年)3月に文庫本の第一版がでたらしい。

 

かなり本気だしてカレーについて綴られています

 

カレーライスの誕生 (講談社学術文庫)

カレーライスの誕生 (講談社学術文庫)

 

はじめてのカレー

カレーが日本に広まる歴史は、戦前明治時代あたりから日本に「カレー(Curry)」という言葉が伝来するところからはじまる。日本に言葉としてカレーが紹介されたのは、福沢諭吉によってである。(たしかにこの話はなんとなく聞いたことがある気がする)

 

おそらくはじめてカレーを食べたと考えられているのは明治期の物理学者の山川健次郎だという。本書でも出されている、『山川老先生六十年前外遊の思出』からの引用を読んでも、相当ショッキングだったみたいだ。

 

何しろ西洋の食べ物なんて云うものは食べた事がない。あの変な臭がするのがまず第一に困って、船に乗っても食わないで居ると、船の医者が飯を食べにゃいかんと勧めて呉れたが、しかしどうしても食う気になれない。それで私は始めにライスカレーを食って見る気になってあの上につけるゴテゴテした物は食う気になれない。それでその時杏の砂糖漬があったから、之を副食物にして米飯を食し、飢え凌ぎましたこともありました。

 

日本に広まるカレー と 日本人の特性

カレーというのは元々インドの食べ物である。スパイスは各地方、家庭によって異なるという話はよく聞く話だ。そんなカレーがインドから、当時世界を君臨していたイギリスへ伝わっていく。更にその食文化が日本の港町(横浜や長崎)に伝わることから日本人の口にもカレーというものが食されるようになる。

 

このカレーが日本に渡った初期の時期には、意外なことに蛙の肉が使われていたり、玉ねぎではなく長ネギが入っていたり、現代の日本人の感覚からは想像もできないような組み合わせでカレーを食べている。本書では「カレー三種の神器」と銘打ち、じゃがいも・玉ねぎ・にんじんがカレーの具材としてオーソドックになり始めた頃を、明治の終わりごろとしている。

 

今は普通にインド系やネパール系のカレーをどこでも食べれるようになったが、たしかにじゃがいも・玉ねぎ・にんじんという組み合わせは殆ど無い。使っているのも日本のカレールーではないので、別物だが明治後半ですでに”日本らしい”組み合わせを編み出しているのは、日本人の性であろうか。下記引用の中でも「魚類カレー」は今ではあまりかんがられないような組み合わせかつ、当時の日本風に合わせようとした工夫が見られる。

 

【女鑑】明治二十九年一二二号

「牡蠣カレー」 牡蠣及び其煮汁 玉葱 牛酪 カレー粉 食塩 林檎 クリーム レモン汁

【女鑑】明治二十九年一二三号

「鶏児カレー」 鶏児 球葱 林檎 バタ 栗 スープ カレイ粉 米利堅粉 食塩

 

ー中略ー

 

【女鑑】明治三〇年一二六号

「印度製カレー」 羊肉、鶏肉、こうしの肉 カレー粉 米利堅粉 食塩 球葱 牛酪 スープ 林檎

「魚類カレー」鱸(すずき)、鯖(さば)、鰈(かれい)、あなごの類 スープ(水・食塩) 球葱 林檎 牛酪 カレー粉、米利堅粉

「蝦カレー」 海蝦(いせえび)または斑節蝦(くるまえび) 蒜(にんにく) 米利堅粉 食塩 カレー粉 牛酪 スープ 玉葱

 

日本文化としてのアレンジ、カレーパンの秘密

これが一番面白かったのだけど、カレーパンって何で揚げているのにカレードーナツとかそういう名前じゃないのだろうと少し思ったことがある。カレーパンはその開発の試行錯誤により、焼くと中に入れたカレー餡が飛び出てしまうという問題があったよう。また当時としては油で揚げるというのがハイカラだったから揚げたという話もある。元は「洋食パン」と呼ばれており、それが自然とカレーパンに変わっていたというのもおもしろい。

 

カレーパンに限らずこの本では、カツカレーや福神漬がカレーにトッピングされるようになった起原はどこにあるのかなど様々な視点から書かれている。

 

また家庭でも簡単に作れるようにカレールウの開発がされたこと、即席カレーとして今でも残るレトルトカレーというものの誕生の裏側の話まで、こんなことだったのか!という驚きと爽快感を感じさせてくれる本書。単純に食文化としてのカレーライスの話だけではなく、日本の文化・日本の戦後経済成長とカレーの消費量の相関もあったりとおもしろい観点からの洞察もありこちらも興味深い。 

おわりに

本で読んでる間もますますカレーが食べたくなり、こうしてブログ記事を書いてる今もカレーが食べたくて仕方がなくなる。カレーという言葉自体がスパイスの香りを思い起こし、食欲をそそるくらいまで日本人の胃袋を掴んでいるとも言える。カレーライスがこんなにも奥深く日本の文化に根ざしているということにも再認識させられ、もっとカレーが好きになりました。

 

あー、今からカレー食べに行こうかな。おいしいカレーと本はこちらの雑誌も。

 

POPEYE (ポパイ) 2013年 08月号 [雑誌]

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